【読了】『もうあかんわ日記』
2021.07.04
もう、最高です。帯の通り、本当に泣き笑いしました。
岸田奈美さんはライター(多分若い)ですが、家族が中々壮絶。
ぼけてしまった祖母。大病で入院した母。ダウン症の弟。
勿論病気とか障害どうこうではなくて、平常時はなんやかんやで上手くいっていたけど、母が入院したことで家庭の色々なバランスが崩れる。
ぼけてしまった祖母とダウン症の弟のかみ合わせが非常に悪い。
そしてそれに振りまわされる姉奈美。
読んでいると笑って過ごせない事ばかりが起きる。もちろん家族の問題だけではなく、外部要因による出来事もあり、それがまた家族に刺激を与える。
本書の中で著者がもう弟と祖母を離すしかないという結論にいたり、介護サービスを申し込もうとした時に、介護者から「気持ちは分かりますが、話されるおばあさんもかわいそうでは?」「気持ちは分かりますが、家族は一緒にいた方が良いのでは?」と言われるシーンがキツイ。
私は他人の気持は分からないと思っている。
推測することはできるけど、それはあくまで「私が」推測しているに過ぎない。
怖いのは「気持ちは分かりますが」と寄り添うふりをして自分の価値観を押し付けてしまうこと。
この場合でいうと、著者がきついと思っているのなら、きついのだ。
そんな時「こうしたらどうですか?」的な善意のアドバイスも受けている側からすると刃物でえぐられることにしかならない。
祖母の介護。弟の介助。母の介助。犬の世話。住み着いた鳩との格闘。その他諸々。
色々な出来事の中で著者の心が丸裸になり、良くも悪くも様々な事を感じ受け取りながら「もうあかんわ」と言っている。強さとも違うけど、強さともいうのかもしれない。
はしがきの中で「もうあかんわと言った瞬間、もうあかんことではなくなっている」と言っている。
つまり、弱音を吐きだし、毒を吐き、愚痴を吐き出すことで様々な出来事を「過去の事」として次の一歩に向かっている。
大きな力じゃないけど、ほんのちょっと「しゃーないな」という感じで翌朝を迎えている感じ。
その辺にこの日記の生々しさを感じます。
でも、毒のはき方が面白い。まあ、その時はそんな面白く考えていないのだろうけど、その日の晩にこの日記を書いている時は面白がっている。
カラッとした毒だから面白いのでしょう。